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憧れの旅館・ホテル

蓬莱

 

国道135号線の脇に「蓬莱」の看板が立っている。そこから右折したら、すぐ車寄せと玄関であった。雑誌などに載っている玄関とはまったく印象が違い、狭く薄暗かった。 男衆が二名出てきて荷物を受け取ってくれた。 上がり框からは番頭さんと思しき男衆がロビーまで案内、そこでは写真で見たことのある女将が挨拶してくれた。 荷物は男衆が部屋まで運んでくれたようだ。 客の荷物を女性が運ぶ旅館が多いが、いつも「何とかならないものか」と思っている。重い荷物を女性に運ばせて平気な男がいるはずがない。こういう場合、私は一番重い荷物を自ら持つようにしているのだが。男衆が運んでくれると、ほっとする。悪しき習慣はなくして欲しいものだ。 しばらくロビーで座っていると、部屋係の女性が現れ、部屋まで案内してくれた。

  

 

部屋は三階の「右近」。 蓬莱は「本館」が三階建てで、一階4室、二階4室、三階3室の計11室。それから「離れ」が5室で総計16室である。エレベーターは無い。 「右近」は、広縁付きの12畳の和室、 7.5 畳の控えの間(ここが寝室となる)、木の浴槽の内風呂とトイレからなる。

  

部屋はいたってシンプル、余分なものは一切ないといってもよいくらいであるが、所々の古さは否めない。窓枠の立て付けもあまりよいとはいえない。 広縁には籐の椅子が置かれていて、相模湾の眺望を楽しめるようになっている。残念ながら、この日は曇っていて海の色が白く水平線もわからず生憎の眺めであった。 窓の外は海に向かって急な傾斜となっており、斜面には「ほそば」(マキ?)、「松」、「楠」などの大木があり枝を張り巡らせている。

 

大木との位置関係で、眺望がかなり違ってくるようだ。「右近」の人気がよく理解できた。 うち寄せる波の音、ひよどりなどの鳥の声、斜面を下る水の音、風情があった。 後から気が付いたのだが、部屋と廊下を隔てた反対側に配膳室があり、その窓のすぐ向こうは道路(135号線?)であった。その位置関係であろうか、部屋では車の音はまったく聞こえなかった。

 

(応対)

男衆達は、満面の笑みで下へも置かぬ、といった応対ではない。わりにあっさりとしていて、そっとしてくれている、といった感じである。 部屋係は、やや年輩の女性で、はきはきとしていて、てきぱきと仕事をこなしていた。 ひょっとすると、このテンポが苦手な客がいるかもしれない。ご本人曰く「女将から、あまりバタバタせずに、もっと上品にやんなさいよと、ときどき言われるんですよ」と。

 

(大浴場)

「走り湯」と「古々比の瀧」があり男女時間制である。 今回男性は、夜「古々比の瀧」、朝「走り湯」であり、夜中は混浴になるようだ。 両者とも、脱衣場には化粧台などの設備はない。 本館三階から「走り湯」まではとても遠い。長い階段を下りてからさらに、「つっかけ」に履き替えて渡り廊下を下っていく。

  

「走り湯」は、年代を感じさせる造りでなかなか風情がある。お湯はぬるめであったが、帰りの坂道を考えてのことだろう。

  

湯上がりの身体をかなり冷まして上り坂に挑戦したが、部屋に辿り着く頃にはうっすらと汗ばんでいた。夏はきついだろうなあ。 「古々比の瀧」は、走り湯までの途中にある新しい半露天風呂。檜の香りもよく気持ちの良い風呂である。お湯の注ぎ口が浴槽の底にあり「掛け流し」ということであった。 古々比坂から部屋までは、あまり苦痛ではなかった。

  

少し気になるのが外国製のボディソープやシャンプー類。総じて外国製の物は臭い(香りではない)がきつい。 風呂上がりのご婦人方と廊下ですれ違ったが、日本旅館にそぐわない、かなりきつめの臭いが鼻についた。大浴場にはレ・バジック、内風呂にはロクシタンが置いてあった。

  

日本旅館では「香り」と「臭い」の違いにもっと敏感になるべきだと思う。「俵屋」の石鹸、匂い袋、もっともっと見習って欲しいものである。 「香りの文化」は、それを生んだ土地の個性(空気、建物、体臭 etc )が作り上げた総合芸術ではないか。 お香を焚きながら洗面所にはモルトンブラウン、という宿もあったが、その宿特有の「香りの雰囲気」を作れないのではないかと思う。宿全体の香りに気を配ったならば、トイレの臭いに無関心でいれるはずがない。  もっとも奥方は、「普段と違うからとても楽しい」と単純に喜んでいたが。

 

(内風呂)

小振りながらも、良く磨き込まれ極めて清潔な木の浴槽であり、窓からは相模湾が見渡せる。洗面台はダブルシンクで、これも清潔で使いやすい。

  

 

(夕食)

家庭料理という触れ込みであるが本当に美味しかった。極上の家庭料理ほど美味しいものはない。

  

  

 

 

  

  

  

厳選された素材を、心を込めて丁寧に調理してあり、一品たりとも、ふぬけた味のものはなかった。ただ、最後の果実は旬をはずれている。 酒は、純米吟醸酒と吟醸酒の二種類。さっぱりとして口当たりがとてもよかった。 残った御飯で夜食にと握り飯を作ってくれたが、これが海苔の香りといい、塩加減といい、またまた素晴らしいものであった。誉めたら、握り飯を作った人は20年の経験の持ち主だと笑っていた。

 

(朝食)

品数は決して多くはないが、やはり一品一品絶品で、御飯を何杯もお代わりしてしまうような料理であった。

 

今まで食べたなかでは最高の朝食の一つである。本当に旨かった、しみじみ旨かった。 研ぎ澄まされた懐石料理の味とは趣を異にするが、夕食ともども、このために訪れる価値は充分あると思う。 ここの料理は、「あさば」を彷彿とさせる。スタッフも「あさばさんと同じ方針です」と、はっきり意識していた。

 

(寝具)

ウレタン系マットと綿の敷布団の二枚組。 寝心地はまずまずといったところだが、リネンの肌触りは素晴らしかった。他の宿より、やや細番手の製品を使っているのか、ごわごわした感じが無いのがとても良かった。

 

(感想)

この宿の評価は難しいところがある。「宿に、何を求めるか」それによって評価はかなり違ってくると思う。 建物の老朽化は否めない。機能性にも劣る。サロンのセンスもやや古くさいし、使い勝手もよくない。大浴場は遠いし、しかも長い長い坂道ときている。 しかし天候さえ良ければ部屋からの相模湾の眺望は素晴らしいだろう。きっと時間を忘れるに違いない。 料理は、本当に美味しい。私は、大好きだ。 仕事に疲れたときなど気分転換に来るには最適な宿ではなかろうか。「隠れ家的な、癒しの宿」だと思う。わりにあっさりとした宿の応対も、それを意識していると思えなくはない。 老朽化したものや、使い勝手の悪いものには手を入れだしている。
「古々比の瀧」はその象徴であろう。 「離れ」にも手を入れたときく。 水回りを新しくし、眺めを良くするために木を切り枝をはらったそうである。
「離れ」からの海の眺めがとても良くなったので、次回は是非「離れ」にと、女将が勧めてくれた。 「走り湯」にも近い。次回は「離れ」にしてみよう。


素晴らしい宿は、少しずつ手直しをしていく。絶え間なく。 「蓬莱」も、古きよきものを残しつつ、手を加えていけば、「日本の誇り」として存在し続けていくのではないかと思う。いつまでも存在していて欲しい宿である。

2004年5月中旬訪問