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憧れの旅館・ホテル
炭屋
本降りの雨の中、車を玄関先に停めると中から傘を持った男衆が出てきた。名前を告げると「少しそのままでいてほしい」との答え。
そして待つこと 1 〜 2 分もしないうちに若い男性が「車を移動する」とキーを預かり預り証をくれた。
パーキングはすぐ右隣にあった。車を預かってくれた若い男性はパーキングの従業員であった。
玄関で靴を脱ぎ、古さを感じる廊下を通り、 若い女性が部屋まで案内してくれた。
部屋は「残月」。表千家の残月亭の写しとのことである。
そこでお茶とお菓子を振舞われ、宿帳を記入した。部屋係りの女性とは別であった。
入れ替わりに中年の部屋係の女性が現れ、夕食の時間を決めた。 18 時か 19 時の選択。
部屋を入ると4畳ほどの控えの間がある。ここには鏡台と衣桁、それに浴衣やタオル類が入った衣装棚が置いてあった。
着替えを隠すことのできるクローゼットが無いため、衣装は衣桁に掛けておくしかない。
押入れの中には布団類が収められてあった。
主和室は 12 畳ほどであるが、特徴ある床の間が 2 畳占めている。
建物はなるほど古いのであるが、その古さはさほど苦にならない。
むしろ風情を感じる。畳も青畳であるし、床の間のしつらえも見事である。
広縁には古色蒼然とした三点セットが置いてあるが、これは使い勝手が悪い。
ガラス戸の向こうは中庭になっている。
湧き水が風情を醸し出している。右手に見えるのは「洗月」の濡縁である。
広縁の一方の端には洗面台がある。アメニティグッズはなぜか鏡台の所に置いてあった。ありきたりの品であった。
他方の端は、トイレと風呂への入り口。
中に入ると狭い脱衣場と一坪もないような狭い風呂があった。
しかし狭いながらも、地下水を沸かした軟らかいお湯と槙の浴槽の良い香りが相まって、とても心地良い湯浴みであった。
トイレはこれまた狭い所に無理やりシャワートイレを押し込んだというものであった。
これは狭くて落ち着かなかった。
部屋の入り口を入ったところに冷蔵庫がある。食事中の日本酒はここから出したようである。
(夕食)
受け狙いのまったくない、むしろ地味とも言える料理であった。
しかし丁寧に造った、しっかりした料理だと思う。奥の深い京料理ではないだろうか。
酒は「炭屋オリジナル純米大吟醸」と「桃の滴・純米吟醸」の二種類が用意されてあった。
どちらも飲みやすい酒であった。
先付 :あっさりとした薄味。
向附き :太刀魚・平目・車海老の三種類。太刀魚はことのはか美味しかった。
車海老の頭は軽く焼いてあった。
煮物椀 :鰹のより効いた出汁であったが、昆布出汁も充分効いていた。とても満足。
焼物 :蓼酢霙がとても爽やかであった。鱸は走りか。
凌ぎ :とても丁寧な仕事である。鯖寿司は素晴らしく美味しかった。
炊き合せ:文句なしに美味しい。今まででも最高の炊き合せだと思う。
冷やし鉢:擂り流しは香りも良く、とても上品な味であった。
八寸 :これはそれまでの流れと一変して味が濃かった。やや不満が残った。
石焼き :なくてもがなという感じである。
酢の物 :品の良い出汁加減であった。
留椀 :白味噌主体の合せ味噌であったが、はっきりとした味でとても美味しかった。
御飯 :新蓮根御飯、絶品であった。あっさりとしながらこくのある味。
水物 :まずまずといったところか。
コーヒーは別注であった。やや酸味の強い味であった。
(寝具)
ウレタン系の薄いマットと綿の敷布団、寝心地は普通。
リネン類の肌触りも普通。
絹のパジャマが用意されてあった。
(朝食)
これは文句なしに美味しかった。私の中では「半水盧」・「蓬莱」と並ぶ最高の朝食だったと思う。しみじみ、ほのぼの、お代わりを何杯もしたくなる朝食であった。
「めひかり」の一夜干、脂の乗りも素晴らしくとても美味しかった。
湯豆腐も漬け汁の出し加減ともどもとても美味しい。
赤だしの蜆も肉厚で良い味であった。
メロンの甘さは不満であった。
最後に、お薄とお菓子が出る。生八橋のような味であった。
(応対)
品格のある丁寧な応対であった。お高くとまっていることはまったくなく、とても親切である。さすが京都の伝統ある宿といった雰囲気であった。
(その他)
食事中、女将が挨拶に来て、「別な所に風呂があるので、後からどうぞ」といわれたので、腹が落ち着いてからいそいそと出かけた。
ます見つけた風呂は電気が消えていて、浴槽の中は空。
申込みが必要なのかなと半分あきらめて脱衣場から出たら、部屋係の女性が現れ、「こちらの風呂が今空いているからどうぞ」、案内してくれた。
大人数人が一度に入れるような浴室であった。これも家族風呂とのこと、一人で占領するのも落ち着かなく、雰囲気を味わうだけですぐに退散した。
窓の向こうで話し声が聞こえてきたが、三ヶ所目の家族風呂のようである。
玄関の横には応接室がある。
新館への通路である。
女将との会話中に「洗月」の興味を話したら、この部屋を見せてくれた。数家族で宿泊していたグループが食事に使っていたらしい。
素晴らしい雰囲気の部屋であった。風呂・トイレがないので普段は泊めないらしいが、ずっとそこにいたいと思わせられる部屋であった。
(感想)
いろんな訪問記で書かれている部屋の古さ、座って見ているだけなら取立てて言うほど苦にはならない。むしろ、ただ新しいだけの高級旅館の和室よりはずっと楽しいと思う。
しかしながら、さて使い勝手となると非常に具合が悪い。導線もきわめて悪い。
狭い場所に部屋風呂を無理やり造るよりも、男女別大浴場を充実させた方が却って心地良いのでは、と考えさせられる。
こういう部屋に泊まると、常に部屋を改修している「俵屋」の凄さが浮き彫りになる。
錦市場
今回は桜・紅葉の季節ではないので、ここへ出かけることにした。
炭屋からほんの数分の場所であった。 11 時以降からは駐車場代がこちら持ちとなったが、場所が良いので車はそのまま預けておいた。
さすが京都の台所、鮮魚店は閉まっていたが、その他の店で充分賑わっていた。
持ちきれないほど爆買いをして、最後に錦天満宮へお参りをした。
近くのカフェのカップチーノである。
2008年5月下旬訪問