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憧れの旅館・ホテル

京都俵屋旅館

 

京都の小路は一方通行が多いので、車ではなかなか目的地に行き着かない。行ったり来たりを繰り返し、やっとの思いで「俵屋さん」(こう表現したくなるような旅館であった)の玄関に辿り着いた。出迎えの男衆に車の鍵を預け、中に案内される。

  

 

「おこしやす」 優しく、温かく、にこやかな出迎えで、こちらの緊張が一瞬のうちに解きほぐされる。帳場の男性、部屋へ案内してくれる女性、部屋係の仲居さん、最近の言葉でいうと、まさに「フレンドリー」「アットホーム」なのである。

部屋は、一階の「富士の間」。一見古ぼけた感じの 10 畳と6畳の和室、それに内風呂とトイレである。驚くべきことに部屋に鍵がない。セキュリティに絶対の自信があるのだろうか、こちらもそれを信じていくことにした。和室は二間とも鼈甲色の「あじろカーペット」が敷き詰めてあった。「究極の畳」に寝転がることが出来なかったのは残念であるが、涼感溢れる肌触りは、それはそれで心地良いものであった。
三和土から庭に出ることができる。手入れの行き届いた庭の向こうにある木立の間から、問題のマンションを見ることができた。なるほど邪魔だ、しかし見えないように上手く工夫してあった。日当たりの悪さに対しては、グランドカバーに吉祥草、シダ、苔類などの日陰に強い下草を巧みに配置してあった。
三和土と部屋の間に、栗のなぐり腰掛がしつらえてある。風呂とトイレへの廊下も兼ねているのだが、削った面が行灯の灯りを反射し夕陽に輝く金色の海のようであり、足の裏に対する刺激が実に心地よい。

  

  

 

部屋は薄暗い電球色の照明であるが、計算しつくされている感じである。行灯の灯り、間接照明、見事としか言いようがない。
最初に出される「おしぼり」、これがまた感動ものである。柔らかなタオルの肌触り、ほのかな心やすまる素晴らしい香り(あの石鹸 Savon de Tawaraya の香り)、丁度よい温度加減、至福の瞬間であった。

 

(風呂)

槇の風呂である。小ぶりではあるが、清潔で、木の香りもよい。ほど良い照明と相まって、のんびりと心地よく入ることができた。お湯の肌触りがとても良かった。聞くところによると井戸水を沸かしているそうである。温泉の大浴場と違って、湯上りの火照った身体を落ち着かせるスペースがないのが少し残念。タオル類はとても上等な品が 2 組ずつ用意されている。朝風呂も可能である。

 

 

 

(夕食)

正直、少しばかり物足りなかった。味に余韻を感じない。
先付け八寸、本当に手の込んだ感動をあたえるのもではなかった。 お凌ぎまではとにかくあっさりした味付けであるが、温物から打って変わって味付けが濃くなった。私としては後半の味付けのほうが好みであるが、腹が膨らんできてからは却ってくどく感じてしまい、食べきれなくなってしまった。願わくば、一品ごとの分量をもう少し減らし、味にもう少しメリハリがあればと思う。漬物の味が今ひとつであったのは残念。茄子がないのが寂しかった。

 

(寝具)

とにかく贅沢である。マットレス、綿の敷布団、真綿の敷布団の三層構造であるが、寝心地としては、かなり硬めである。真綿の柔らかさを背中に感じるが、芯の部分では硬い。腰の沈み込む感じがないのは良いが、ベッドの硬めのマットの微妙な弾力が恋しかった。季節柄、カバーは麻であった。羽毛の掛布団に麻のカバーはなじまないと感じたのは私だけであろうか。絹の寝巻きが用意されていた。

  

 

(朝食)

朝の目覚めに、しぼりたてのオレンジジュースか、長野から産地直送のヨーグルトを出してくれる。とても美味しいヨーグルトであった。焼き魚が、「ぐじの干物」「かれいの干物」「あじの干物」「しゃけ」から選ぶようになっている。湯豆腐がついているが、湯葉がことのほか美味しかった。やはり漬物はいただけなかった。京都の漬物は本当に美味しいのに、期待はずれであった。

 

(お弁当)

今月(9月)の折箱は湯葉ごはん。通年の天巻きずし,ともにとても美味しかった。

 

(感想)

各界の著名人が絶賛する俵屋旅館、胸躍らせて行ってきました。
やはり、温泉宿とは違います。広々とした大浴場、開放感あふれ眺めの良い露天風呂、これらは宿泊の大きな醍醐味です。槙の小さな内風呂では全く勝負になりません。
しかし俵屋さんには、限られた空間を完璧に計算しつくした芸術ともいえる佇まい、それに非の打ち所のないホスピタリティーがあります。さらに、視覚・嗅覚のみならず触覚まで満足させてくれる心使いを感じました。それは本当に感動ものです。これらを維持していくのに、どれだけのエネルギーをつぎ込んでいるのか、想像も出来ません。
川のせせらぎ、滝の音、鳥や虫の鳴き声、聴覚を満足させてくるこれらがあれば申し分ないのでしょうが、そのかわり俵屋さんは静寂を与えてくれます。
そこを目指して行く宿としては、いささか不満が残るかもしれませんが、京都に観光で行く、京都に仕事で行く、そしてその夜をすごす。そのためとしては申し分のない宿であると思いました。旅の宿として定宿にするには最高の宿だと断言できます。本当に「居心地の良い」宿です。

私の宿に対する考え方をとことん変えたのが、イギリスのコッツウォルズにある、ザ・リゴン・アームズでした。 450 年以上前に建てられた石作り(ハニーカラーのライムストーン)の古い建物で、中は薄暗く、階段や廊下は古ぼけていてミシミシと軋みます。しかし部屋の中は統一された色調のもと、寝心地の良い最高級のベッドと肌触りの素晴らしいリネン、清潔感あふれ気持ちの良いバス、最上級のタオル類やバスローブが備えられています。廊下には所々置かれたポプリから心地よい香りが漂い、庭では手入れのいきとどいたハンギングバスケットやウィンドウボックスが目を楽しませてくれます。スタッフの素晴らしいホスピタリティー、土地の産物を利用した、そこそこ美味しい料理。素晴らしい宿でした。

それまでは新しければ新しいほど便利で良い、綺麗で良いと思っていましたが、見事に打ち砕かれてしまいました。
洋の東西を問わず、旅の宿を突き詰めていくと、同じところに行き着くようです。

2003年9月下旬訪問