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憧れの旅館・ホテル
お宿うち山
夏真っ盛りなのに「雷三日」に遭遇し、散々な旅立ちであった。
熱海から伊東線に乗り換えるのだが東海道線の特急踊り子が真鶴付近で大雨のため立ち往生、そのあおりを受け単線の伊東線は大幅遅れとなってしまった。悪いことは重なるもので伊東のひと駅手前で我々の鈍行列車も立ち往生、なんと伊豆急行の司令所に落雷があり復旧の見込みがたたないとのアナウンスがあった。50分近くたってとにかく伊東の駅までは行くと、そしてそこが終点だった。
伊東駅からタクシーに乗り渋滞を避けるため裏道を走り、30分足らずで宿に着いた。
洒落た家々が点在する一角に宿はあった。
車止めにタクシーが着くとフロントの女性がでてきた。
変わった入口の建物に入ると和服姿の中年女性が現れ、特徴的な渡り廊下を通って離れに案内してくれた。ここで靴を脱ぐ。
煎茶とお菓子(味噌松風)が出たが、お茶のぬるかったのはどうしたことだろう。
正式な入れ方としても、ぬるかった。
部屋は「ささゆり」、一番はずれにあるメゾネット形式の離れである。
10畳程の和室、4畳半の掘り炬燵付きの板の間、そしてその奥、障子の向こうには(窓側であるが)内風呂があった。
トイレは一階にある。
二階には露天風呂がありツインのベッドルームからつながっていた。
ベッドルームには洗面台と小型の液晶テレビが備え付けられてあった。
建物全体が古民家調で統一されている。決して贅沢な造りではないが落ち着いた雰囲気であった。
(応対)
やはり東伊豆、東京に近いためか、洗練されていてとても丁寧な応対であった。
(風呂)
ここには大浴場はない。内風呂と部屋付き展望露天風呂からなるのであるが、プライバシーの面で大きな問題を抱えている。
一階にダブルシンクの洗面所とシャワールームと大人二人が入れるほどの浴槽がある。
立ち上がると近隣の家から見られる恐れがあった。バスルームは明るくしないほうが良いかもしれない。
二階の展望露天風呂は大人数人が入れる広さがあった。
ここも正面はなにも問題はないのであるが左右の角度では立ち上がったときに見られる恐れがある。
眺めは素晴らしい。この季節は海と空の区別がつきにくく少しばかり残念であるが開放感は抜群である。晴れた夜は星空が素晴らしいに違いない。
問題点がもう一つ二つ、浴槽の縁に腰掛けて眺めを楽しみたいのであるが、縁がゴツゴツした素材で出来ているので尻が痛くなってしまうのである。デッキチェアーとバスローブが備え付けられてあるのだが夏以外は寒いかもしれない。
屋根が無いため雨天時は残念なことになりそうだ。スタッフの話では最初屋根を付ける構想はあったのだが、ここは強風が多く簡単な屋根では吹き飛ばされる可能性が大なので諦めたとのことであった。
タオルは豊富に用意されていたが、アメニティグッズは貧弱であった。
(夕食)
食事処で食べる。入り口が暖簾で仕切られた個室であった。
京風料理である。味は素晴らしかった。
食前酒は「醸し人九平次・別誂」。九平次は愛飲の酒である。「別誂」はワインの風味があり食前酒には良いが食中酒としてならば「大吟醸」の方がすっきりとしていて合うと思う。
酒リストは豊富で、中に「十四代」があった。かねがね一度飲んでみたいと思っていた酒である。「竜の落し子」しか用意はなかったが喜んで頼んだ。予想よりかなり辛口であった。
素晴らしい出汁であったと思う。
碗物は鰹の勝った出汁味で、関東風にしてあるのかなと少し疑問を持った。
冷鉢の出汁は昆布の旨味を充分生かした、まさに京風出汁であった。
八寸も一品一品丁寧に作ってあり充分満足できた。
カマスと松茸の相性も素晴らしい。
玉〆、いわゆる茶碗蒸しであるが、卵の舌触り、柔らかさ、出汁加減といい絶品であった。へんな茶碗蒸しが出るとがっかりするものだが、これならまったく不満はない。ケッパーのアクセントも絶妙であった。
器もセンス溢れた素晴らしい物を使っていると思う。
残念なのは鱧の脂ののりがいまいちであったことと、水物が上物でなかったことくらいであった。
(寝具)
浴衣とは別にナイトウェアがあった。浴衣はカラフルなものが三点あり好みで選べる。部屋に置いてあるので全部着ても構わないのだろう。ただしフリーサイズである。
ベッドはセミダブルサイズ。
ベッドといっても小上がりの板間に薄いウレタン系マットを二枚重ねただけの敷き布団であるから当然硬い。
リネン類も普通の物。
(朝食)
これも一品一品丁寧に作られていた。
やはり温泉玉子の出汁は素晴らしかった。デザートの果実にかけられているクリームも絶品であった。しかし宿名物の鮑の肝入り餡掛けは味にメリハリを感じなく残念であった。またコーヒーは酸味が強く不満の残る味であった。スティックシュガーにポーションのクリームはいただけない。
(感想)
この宿の最大の魅力は食事だと思います。予想以上でした。京料理の流れを大事にしながら所々遊びや挑戦を感じます。無理な洋の取り入れなど無く、とても好感の持てる料理でした。料理で名だたる宿に決して引けをとらない出来だと思います。ハードの不満を補って余りあるものだと思います。違った季節に違った食材を使った料理を食べてみたいものです。
それからスタッフの応対もとても良く気持ちの良い滞在が出来ました。
最近、このような露天風呂付き離れ形式の宿が続々と出来てきているようですが、あまりにも 「お籠もり」 の雰囲気が強すぎると何故か却って「侘びしい」 気持ちがします。「二人だけの濃密な時間を持ちたい」 といった向きには最適なのでしょうが。
大浴場の活気、サロンやバーでの出会い、こういったものが無いとどこかメリハリのない滞在と感じてしまう私でした。活気がありすぎると今度は 「うるさい」と思うのは我が儘でしょうねえ(笑)
帰りはタクシーで伊豆高原駅へ。10分程で着きました。東京に近いリゾート地の駅なのでしょうか、ショップも多く、垢抜けた雰囲気でとても賑わっていました。足湯もありました。
2006年8月中旬訪問